「ミケランジェロ・プロジェクト」
―ナチスから美術品を守った男たち―
戦争をテーマに描かれた作品は、フィクションにせよ史実に基づいた表現にせよ、既に出つくしている感すらありました。けれども、10月25日に角川文庫から出版された「ミケランジェロ・プロジェクト」は、あくまでも史実(知られざる史実です)に忠実でありながら、切り口のまったく異なる興味深い戦争作品となっています。
ヒトラーひきいるナチス・ドイツによって占領地から略奪された500万点(!)にもおよぶ美術品。ミケランジェロ作「ブルージュの聖母像」をはじめとして、「ゲントの祭壇画」、レオナルド・ダ・ヴィンチ、レンブラント、フェルメール、モネ、ピカソ、etc.。
第二次世界大戦末期の戦火の中で、人類の至宝ともいうべきそれらの美術品を、ナチスから取戻し、保護し、本来の持ち主、元の場所に戻すという任務に命を懸けた特殊部隊MFAA(記念建造物・美術品・公文書の頭文字)の記録です。
美術館員、彫刻家、美術品修復士といった経歴の持ち主で、決して若くはない当時の年齢からすれば戦争に駆り出されることはなかったはずの彼らは、戦場となったヨーロッパの(人類の、といっても過言ではありません)「歴史」や「文化」を守るべく、時の大統領ルーズベルトに上申して特殊任務を与えられ戦地に赴きます。
彼らの前に立ちはだかったのは、行方の分からない美術品に関する情報の少なさ、やがてヒトラーによって発令される「ネロ計画(敵の手に渡るくらいなら全て破壊しつくせという命令)」との時間的な競争、さらには米英を中心とした味方の連合軍の「歴史」や「文化」というものに対する理解のなさです。
今、私たちがヨーロッパを旅する時、目にすることのできる古い城郭や教会堂の荘厳なたたずまい。美術館で催される展覧会で見ることのできる美の巨匠たちの作品の数々。けれども、それらを守るためだけに戦場に赴き命を懸けた人たちがいたということは、決して広く知られた史実ではありません。実際、MFAAのメンバーのうち2人は戦禍に倒れたのです。
ロバート・M・エドゼルの原作「ミケランジェロ・プロジェクト」は、アメリカで映画化されて、現在ロードショーにかかっています。また、訳本の文庫の新刊書が書店に平積みになっているかと思います。
興味のある方は、是非ご鑑賞ください。(石井)